熱中症の病態

熱失神

熱失神(heat syncope)とは…
血圧低下や脱水により脳の血流が低下して、一過性に意識を失うような状態を指します。

熱失神がおきるわけ

熱中症の初期の体温は、ほぼ正常に維持されていますが、皮膚の血流が増えて内臓の血流が減ったうえに、発汗による脱水も生じます。これによって、血圧が低下して、脳にまわる血液量が減少します。すると、立ち上がったり長く立ったままでいたりすると、一瞬、めまいがしたり気を失ったりすることがあります。このような状態を「熱失神」(heat syncope)などと呼びます。

熱失神がおきたら

まず、意識を失って倒れないように、安全なところでしゃがんだり、横になるなどで、脳内の血のめぐりを回復させます。また、水分とナトリウムの摂取を促します。なお、短時間で回復しなかったり、自分で水分を摂取できないなら、別の疾病も考えられますので医療機関に救急搬送する必要があります。

熱けいれん

熱けいれん(heat cramp)とは…
ナトリウムの不足が原因となって、使っている筋肉がつったり、こむら返りを起こしたりしている状態を指します。(全身のけいれんではない)

熱けいれんがおきるわけ

大量の汗をかいた後に、塩分(ナトリウム)の少ない水分を大量に摂取すると少し時問が経ってから血液中のナトリウム濃度が低下してきます(低ナトリウム血症)。この状態は筋肉の収縮を誘発しますので、工具を握っている手を自分では開<ことができなくなったり、手足がつったり腹筋等がこむらがえりすることがあります。(小児が発熱時に起こす熱性けいれんとは異なります。)

熱けいれんがおきたら

食塩入りの飲料や食品を摂取したり、医療機関でナトリウム入りの点滴を受けたりすることが必要です。なお、大量の筋細胞が壊れると急性腎不全を生じることがありますので、尿の色が濃いときや尿がほとんど出ないときは、医療機関を受診して腎臓や尿の検査を受ける必要があります。

熱疲労

「熱疲労」(heat exhaustion)とは…慢性的な脱水により筋力や消化機能等が低下した状態を指します。

熱疲労がおきるわけ

脱水によって、全身の細胞をとりまく水分が減ると、さまざまな臓器の機能が低下し、慢性的な疲労感などを生じます。脱水によって体重は減少し心拍数は上がります。軽いうちは「夏ばて」と呼ばれ、単に元気がないだけで済まされていることがありますが、体重減少が2%を超えるような脱水が生じると、頭痛、吐気、めまい等の症状や身体機能の低下が生じやすくなります。無理に筋肉を使うと筋細胞が壊れやすくなり筋力が低下します。

熱疲労がおきたら

安静にして水分と塩分を補給する必要があります。改善しない場合、医療機関に搬送して補液(点滴)等による治療と検査を受けて、臓器の機能が回復するまで入院する必要があります。

熱射病

「熱射病」(heat stroke)とは…
体温が上昇して、脳の体温中枢が障害されて、体温が40℃を超えているのに汗が出なくなり、意識障害が生じて、死亡するおそれのある状態を指します。

熱射病がおきるわけ

体温の維持ができなくなり核心温が39℃を超えて、脳の視床下部に存在する体温中枢が障害された状態です。体温中枢の異常が続いて、皮膚の血管拡張や発汗等の生理的な反応が止まると核心温は急激に上昇します。細胞の温度が41℃を超えてくると細胞の壊死が始まり、その臓器が機能障害に陥るとともに、血管内で血液凝固系の反応が発生して播種性血管内凝固症候群(DIC)が始まり、これに脱水による血流の不足が加わると臓器の障害が加速します。さらに、消化管の粘膜が損傷されて腸内常在菌等から内毒素(エンドドキシン)が放出され、これによる免疫系の反応が生じて全身性炎症反応症候群(SIRS= system inflammatory response syndrome)という病態が生じて、臓器の障害がさらに加速します。

熱射病がおきたら

一刻も早く、救命救急の経験が豊富な医療機関に搬送して集中治療を施す必要があります。徐々に暑さの感覚が麻痺し、避暑行動を取らなくなり、足がもつれてふらついたり水が飲めなくなったり、うわごとを言ったり異常な言勁を生じたりします。やがて全身が多臓器不全(MOF)に陥ります。意識状態が低下して昏睡に陥り、全身のけいれんなどの症状が認められ、生命が危険な状態で、たとえ救命できても脳の障害などが残る可能性が高くなります。

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